―現場と法のあいだで揺れる“表示のグレーゾーン”を斬る―
1. はじめに
こんにちは。肉切る食品法務専門行政書士、カネウジです。
今回は、精肉売場ではおなじみの表示「国産牛肩ロース」について、
「これって法的にセーフ?アウト?」という疑問にお答えします。
現場の感覚では「普通に使ってるし、問題なんて聞いたことないよ」という声が大半かもしれません。
でも、表示の裏側にはしっかりとしたルールがあるのも事実。
この記事では、表示基準・景品表示法・実務慣行の3つの観点から、丁寧にひも解いていきます。
2. POP表示は「食品表示基準」の対象外?
まず押さえておくべきは、食品表示には「義務表示」と「任意表示」があること。
【表示区分ごとの比較】
- 義務表示
例:パックのラベル
根拠法令:食品表示基準(食品表示法)
→ 表示ルールが厳格。記載すべき内容が細かく定められている。 - 任意表示
例:POP、メニュー、チラシ
根拠法令:景品表示法など
→ 誤認を避ければ比較的柔軟。食品表示基準の直接の対象外。
「国産牛肩ロース」はPOPで使われることが多く、この場合は「任意表示」にあたります。
したがって、食品表示基準で細かく規定された“名称の書き方”がそのまま適用されるわけではありません。
3. 実務で問題となるのはどんな場合?
「国産牛肩ロース」のPOP表示が問題になるのは、主に以下のような場合です。
- 豚肉や外国産肉など、実際の商品と異なる表示をしている
- 「肩ロース」とだけ書いて、牛か豚か不明で誤認される可能性がある
- 「肩ロース」として売っているが、実際にはモモ肉等の混合である
こうした表示は、景品表示法における「優良誤認」や「原産地誤認」として指導・処分の対象となることがあります。
逆にいえば、「国産の牛肩ロース」を正しく使用し、「国産牛肩ロース」とPOPに記載する分には、
現実的には問題とされないのが一般的な運用です。
4. 表示基準と「肩ロース」の扱い
食品表示基準では、「名称」の表示について以下のようなルールがあります。
- 義務表示(ラベル表示)の場合:
「牛肉(肩ロース)」のように、畜種名(牛、豚など)+部位名の記載が必要。
つまり、ラベルに「肩ロース」だけと書くのはNGです。
ただしこれは、パック表示などの「義務表示」に限られたルールです。
POP表示はこの対象ではなく、あくまで消費者に誤解を与えないことが前提となります。
5. 現場で気をつけたい3つのこと
- 【畜種・産地・部位を揃える】
→「肩ロース」だけではなく、「国産牛肩ロース」のように明確に。 - 【実物との一致を守る】
→ 実際には肩ではなくモモ肉を使用しているのに「肩ロース」と表記するのはNG。 - 【消費者視点を持つ】
→ 専門用語ではなく、誰が見ても分かる表示にすることが大切。
6. 表示違反が問われた事例
実際に行政指導や警告の対象になった例には、以下のようなものがあります。
- 「カルビ」として販売されていたが、実際はモモ肉だった
- 「国産」とPOPに大きく記載し、実際は外国産原料だった
- 「和牛肩ロース」と記載しながら、交雑牛を使用していた
これらはいずれも、内容と表示のズレがあったために問題となりました。
「表示が正確」「中身と一致」「誤認がない」の3点を満たせば、POP表示は十分に許容されます。
7. まとめ:「国産牛肩ロース」POPの可否
以下のように、表現ごとの適正性をざっくり整理します。
- 肩ロース(畜種・産地なし)
→ △:誤認の恐れあり。畜種明記を推奨。 - 国産牛肩ロース
→ ◎:一般的に適正と評価される。 - 豪州産牛肩ロース
→ ◎:内容が事実と一致していれば問題なし。 - 牛肩ロース(中身はモモ肉)
→ ×:誤認表示。景品表示法違反のおそれあり。
▶ 次回予告
明日は、「スペアリブ」のPOP表示について掘り下げます。
こちらも精肉売場ではよく見る表記ですが、じつは“部位の曖昧さ”が潜む表示なのです。
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